人と人の狭間にある壁は ――ぐおーん、がおーん。 エルフとマギウスとプリーストの街。 そこで、さだつかんとつきみんを探して俺達は迷走した。 『おーい、さだつかん、つきみーん。いたら返事しろー』 のしのし歩きながら、二人を探してみる俺。 その横をにやにや笑いながら歩く隠者たんことハーミット。 これ、実はこう聞こえる。 「ぐおーん、がおーん」 しかも、街並みの木やら売り物やらが音波で揺れる。恐るべしドラゴンの大声。 ……怖がってやがる。街の住人。しかも露骨に隠れたのまでいる。 どうやら、異種族間の会話が通じないのはプレイヤーの間だけではなくNPCにも適用されているらしい。 おい、にこにこ笑いながら見てるだけか貴様。 ハーミットの方を睨むが、何処吹く風だ。お前この言葉の壁を楽しんでるだろ。 やれやれ。頑丈さでドラゴンを選んだが、こんな所で困った事態になるとはな。 俺は今、ハーミットとパーティを組んでいる。 こいつはエルフでクラスはブリーダー。 つまりドラゴンやエイリアンとの意思疎通が出来る貴重なクラスだ。 オマケに、弱点である命中率の補正は出来るは体力の底上げは出来るわでいいことづくめだ。 ハーミットと会えた事は非常に助かった。しかし…… 『ハーミット!探す気ないのか!?仲間が見つからなきゃ死ぬんだぞ!』 この街に入ってからのあまりにあまりな非協力的な態度に堪忍袋の緒が切れ、つい胸倉を掴んでゆさゆさしつつ大声で怒鳴る。 で、これはこう聞こえる。 「ぐおおおっ!!がおおおおおおおおおっ!!!」 …………しまった。あまりの大声でガラスが割れた。しかもエルフの子供が逃げた。 売り物がどっさりと地面に落ちた。 おまけに、こちらに向かってエルフの警官隊がやってきた。 確かに端から見ればエルフをカツアゲしてるようにしか見えない。 しかもこっちはドラゴン。 ……剣を携えて鎧を着てるとは言え、モンスター扱いで退治されかねない? 『不味い!逃げるぞハーミットっ?!』 「ぐお、がおおおっ!!」 と聞こえる叫びを上げつつもとっさにハーミットを抱え、全速力で街の外へ戦略的撤退。 その間も、エルフの警官の追撃は続く。 投げナイフは飛んでくるし魔法は飛んでくるし。お前等俺を殺す気かああそうか。 ああ、頑丈なドラゴンで良かった。いやそういう問題じゃない。 …………遅いんだ、致命的に。 全速力で走っても、時速15km。さらに、それほど影響がないとはいえエルフを一人抱えているのでさらに遅い。 先ほどからちっとも距離が開かない、むしろ縮まっていく。 ああくそ、せめて街の外まで逃げれば勝ちだ! 街の外までもう少し。ラストスパートだ。 死に物狂いでスピードを上げた。 逃げられた。なんとか逃げられた。 流石に、街の外まで警官隊は追ってこない。 そこまで危険は冒さないつもりか、それともよそものエルフにそこまでする義理はないと思ったのか。 いずれにせよ、助かった。 だが、疲れた。とりあえず街から離れた場所で一時、休息を取る事にした。 『お前、やっぱり翻訳機作れ』 「ぐお、がお」 としか聞こえない声を上げながら、隠者たんにチョップ一発。 しかし、隠者たんはにこにこと笑うだけ。 くそぅ。頭上がらないじゃないか。先行き不安だ。 これからどうやってさだつかんとつきみんに連絡を取るか。別の方法を考える事にした。 人と人の狭間にある壁……それは、言葉だ。 話せばわかる?そりゃ、同種族間での話だ。 to be continued...?