3文字の合言葉、それは ――まあ、とりあえず。 1日目の夕刻。ようやく街まで辿り着いた。 様々な種族が入り混じり、生活している場所らしい。ドラゴンが一匹混じっても違和感がなくて助かるな。 ……さて。 武器よりも防具よりも真っ先に掲示板を探す。 他メンバーと連絡を取る為だ。 あー。これ、一昔前に流行ったらしいボトルメールってソフトを思い出すな。 読んでくれるかわからない伝言を書いて流すアレ。 あれ、浪漫だなあと思ったことあるんだ。今は廃れてるかな。 いやいやいや。現実逃避するな自分。 とりあえず。リアルと違って眼鏡なしで随分遠くまで見えるのは助かる。 眼鏡、嫌いじゃないんだが曇ったりとかすると不便だからな。 のしのしと歩きながら、そんな事を考えていると。 げし。 あ。誰か蹴った。 足元を見る俺。……ああ。蹴ったのはホビットか。 うわ。5メートルくらい吹っ飛んで八百屋さんの露天にぶつかった。 『すまん、大丈夫かっ?!』 思わず大声で相手の様子を確認してしまった。…………あ、不味い。 「ぐお、がおおおおっ?!」 おそらく、相手と周囲の耳にはこう聞こえているはずだ。 案の定、喧嘩を売られていると勘違いしたホビットが逃げた。…………やってしまった。 多分「ワレ何処に目ぇつけとんじゃぁ?!」と脳内翻訳したものではないかと思われる。 共通言語を持たない種族の弊害ってのは、ここまで影響してくるのか。 しまったな、さっきのホビットがプレイヤーキャラクターであるかどうかさえわからなかった。 まあ、あとでメールワニ機能を使って確かめるか。 プレイヤーだったらメールワニリストに『???』と言う表記で掲載されているはずだし。 数分後、街の中央でようやく掲示板を見つけた。よくある伝言板スタイルだ。駅にあるよなあこれ。使ってるの見たことないけど。 …………………うずうず。 伝言板を見ると、アレを書きたくなって仕方がない。 しかも現実社会でやると怒られるがここでやる分には別段怒られないだろう。 やるか。 コンマ1秒で行動決定。置いてあったチョークを手に3文字書く。 『XYZ』と。 いや待て、アホか私は。まあやっちまったもんは仕方ない。 ついでに別の事も書いておこう。 何を書こうか。 『プリースト、およびシーフ募集。当方ドラゴン@ソルジャー』 …………やめておこう。これはあんまりにあんまりだ。 シーフとプリーストは引く手あまただ。現時点では他のクラスと組んだ方がいいだろう。 一応、この階層でなら別の後衛と組んでもいけるはずだ。 別の事を書こう。 『当方、速攻クリア重視。同志求む』 ……ぎりぎりまで粘るプレイヤー、多いかな。却下。 ゲーム時間内で数分考えた後、こう書いた。 『こちらは6日目昼前後に1階層クリア予定。2階層以降で会う時の符丁は、この階層の通貨で』 まあ、何人生き残れるかどうかはわからない以上これでOKだろう。 あんなアホな合言葉を残すプレイヤーはそういない。見当をつけて接触をはかってくるだろう、多分。 とりあえず、次は新しい武器と防具の調達だ。 俺は、武器屋の方へ歩いていった。 一枚、コインを財布から抜き取って懐に入れておいた。符丁であり、護符代わりでもある。 何故なら。 そのコインには、翼を広げた竜が刻印されているのだから。 to be continued...